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版権・文責:スーザン小山{2001(C)} All rights reserved.
無断転載、複写再製厳禁
2001年11月15日出版
ナヴァホ(ナバホ)ラグは、数あるアメリカインディアンのなかでもとりわけ工夫の才能に優れ、外来文化をとりいれるのが上手なナバホ族の織る絨毯で
す。
アリゾナ州北部、ニューメキシコ、そしてユタ州にまたがる広大な保留地に住むのがナバホ族です。その人口は現在の合衆国のなかのインディアンとしては最大
で、またその保留地も日本の本州全土を越える広さです。
ナヴァホ族は遺伝子の構成が95%以上日本人とおなじだといわれ、その起源はアジアだと自分た
ちでも信じています(アメリカインディアンがアジアから渡来したということは学者がいっていますが、米大陸にいるすべての部族が、みなアジアから来たとは
いえません)。
ですからナヴァホの方々は、日本人にはとりわけ親しみを持っています。
また、外来のものを取り入れて上手にこなしてしまう才能も、日本人と非常によく似ています。
ナヴァホラグはそのようなナバホ族の創造の才能から生まれたもので、すでに1世紀以上の長い間、米国や欧州の愛好家たちにひろく親しまれ、またこれを持つこ
とはステータス・シンボルと考えられているくらいです。
このラグについては、別のページ(ここをクリック)でその歴史を簡単に説明しています が、その芸術的な美しさに体する鑑賞の手引きとして、またよりよく理解し、親しみを増していただくために、このページを作りました。
現在日本にもインディアンラグは紹介されはじめているようですが、関係方面の知識が不足であることが、消費者の興味を呼ばない理由のひとつだと思い
ます。
またメキシコから類似のものが安く出回っているようです。これらのラグはザポテックラグで偽物ではなく、それなりの歴史と背景をもっていますが、本格的な収集家は
見向きもしないもので、品質も技術もナバホラグより数等劣ります。
本物のナバホラグの良さ、丈夫さは、適切な取り扱いをすれば何世代ももつ、すばらしいものです。ですがメキシコのものは、その点でまったく劣り、またパ
ターンもほとんどがナバホの模倣です。
ではパターンの説明に入ります。
ここにある写真はみな、合衆国内務省公園局のアリゾナ州ハッベルトレーディングポスト国定公園のウエブサイトから借りたものです。
この国定公園は、白人のインディアントレーダー(保留地に住んでインディアンと交易をしたひとびと)のひとりが、昔トレーディングポスト(インディアンと
の交易本拠になる店)として使っていたところをそのまま国が買い上げて公園とし、観光客に解放しているものです。
広大な保留地の各地から集まった美しいラグは、いまでもここで定期的に競売され、また織り手さんのデモなどを提供している興味深いところです。
つぎに紹介するものは、ナバホラグのパターンのなかの、典型的なものです。
こういうパターンにはそれぞれ名前がつけられ、収集家はそのパターンによって、自分が集めるラグの目安にしています。
私が扱うラグも、このようなパターンを集めることを心掛けていますが、日本のお客さまには日本人の好みがあり、それは特に集中して扱うようにしています。
写真左:チーフ・ブランケット
白人のトレーディングポストで、部族のなかの位の高い族長(チーフ)向けに作られたもので、このような縞模様が基調になっています。まんなかに穴をあけて
首を通しずぼっと体を覆う、メキシコ人のいわゆる「セラペ」から来たものです。
初期のものは青、白、黒と茶色といった非常に素朴な取り合わせでしたが、時代が下るにつれさまざまな色が採り入れられるようになりました。ですが単純な縞
模様のパターンは今でも変わっていません。
写真右:チンレ
チンレとはナバホで霊魂を表す言葉です。また保留地にある国立公園で、キャニオンデシェーという、美しい名所の入り口の町の名でもあります。チンレは現在
もっとも多く織られているもののひとつです。瓜の花、そろばん玉の積み重ね、菱形などと縞が交差しているところが特徴です。
色合いも昔は素朴なものが多かったのですが、現在では鮮やかな色や金色もとりいれられています。
写真左:クリスタル
これも縞模様ですが横糸の扱いが非常に細やかで、縞を色調の異なる糸で作り、縞が別の縞が走っているようになっているのが特徴です。また縞と縞のあいだの
模様は、この作品のように縁取り(星形のまわりの白)があり、作者の技巧のすばらしさを示しています。クリスタルと呼ばれる理由はこのような水晶の形(ク
リスタル)が多いからですが、場合によっては星や矢、十字架や三角形、菱形がとりいれられます。
写真右:ワイドルーイン
縞模様が複雑で、さまざまな色合いをなしており、またその幅もさまざまな色をなしているところがこのパターンの特徴です。縞のなかに織り入れられている異
なった色合いに、織り手の高度な技が見られ、もっとも込み入ったパターンとして昔から尊重されて来ました。
写真左:アイダズラー
アイダズラーとは「目が覚めるような織物」という意味で、その名の通り、パターンがおおぶりなこと、色合いが多彩なことが特徴です。これは白人の交易家
(トレーダー)が保留地に来た最初の頃、フィラデルフィア州のジャーマンタウンという町から鮮やかな化学染料を取り寄せて、下請の織り手さんに配布したこ
とから生まれたパターンです。ですから、非常に歴史の古いパターンといえるでしょう。
私はこないだフェニックスの博物館で初期のアイダズラーを見ましたが、100年以上たっていながら、彩りが鮮やかなことに非常に驚きました。
このようなものに限らず自由奔放な幾何模様で、ほんとうに目が覚めるようです。
写真右:ガナド
濃い縁取りと、赤地、真ん中に象徴的な形、それを囲んで四方にさまざまな幾何模様を配置しているのが特徴です。これはガナドというところにトレーディング
ポストを作ったジョン・ロレンゾ・ハッベルが広めたパターンで、必ず赤を使っているところから、「ガナド・レッド」とも呼ばれています。
したがってパターンとしてはクラシックなもののひとつで、ここからいろいろなものが派生しました。
写真左:ツーグレイヒルス
ツーグレイヒルスはその名の通り、ふたつの丘を象徴したもので、ナバホ族が昔から山の象徴として使っていた形をモチーフにしています。
写真右:バーントウォーター
ツーグレイヒルスから派生した、比較的新しいデザインです。縁が二重になっている点、三角を重ねたような形などが共通していますが、こちらは羊毛の自然色
をそのまま、または混ぜて使うのではなく、草花の自然染料、化学染料をおもに、パステル風の色合いにしあげています。
写真左:クラゲト
クラゲトとはナバホ語で「隠れた泉」という意味です。この模様もツーグレイヒルから派生したものですが、より色彩豊かで、それでいながらほとんどがグレー
を背景に使っているところ、そして中央に長細い菱形があるのが特徴です。
写真右:ニューランド
新しい地、というその名の通り、これは石炭開発などで在来の土地から政府の方針によって移住させられたひとびとが作り出したものです。したがってパターン
としては非常に新しいものです。
色合いはバーントーォーター、それにつぎに説明するティーノスポスのパターンが融合し、複雑な模様を取り入れているところが特徴です。総体に非常に大きな
もので、そのためお値段も高価です。
写真左:ストームパターン
まず中央に小さな形が見え、これは宇宙の中心を示しています。そこから稲妻のようなジグザグが走って四方にのびています。四つの方角は常に四隅に示され
て、ここにナバホのひとびとの宇宙感が現れ、ナバホラグのなかでも、とりわけきわだった、特色のあるパターンを示しています。ナバホ族の作るものは宗教的
な意味のあるものと考えるひとは大勢いますが、全体的にはそうとはいえません。ですがこのラグパターンは例外といっていいでしょう。
写真右:ティーノスポス
ティーノスポスとは「コットンウッドが丸く生えたところ」という意味で、広大なナバホ保留地では東北の隅になり、コロラド州に近い場所です。このパターン
は昔、白人トレーダーがペルシャ絨毯を見せ、「こういうものを織るように」といったところから始まったともいわれています。最大の特徴は縁の幅が広く、縁
のなかにさまざまな模様が織込まれている点でしょう。中央部にはフェザーや弓矢がスタイル化され、それにジグザグ、幾何模様などがいっぱいあります。総体
に非常に大きな作品で、したがってお値段も高価です。
写真左:サンドペインティング
サンドペインティングはナバホ族の伝統的な祈りの儀式、治癒の儀式にメディシンマンが色のついた砂で描くものです。いちど使用するとその場で消されます。
それは祈りに集まった神を描いているので、おそれ多いという考えからです。したがってこのようなものに織ってお金に変えるということには、強い反対の声も
あります。
テーマはいうまでもなくさまざまに神聖なものの象徴ですが、このような関係からあまりたくさん織られていません。
写真右:トリーオブライフ
これは木、またはとうもろこしがバスケットから生え、それに鳥が群がっている様子を描いています。木は命のしるしで、鳥は繁栄、健康、平和などを表してい
ます。鳥は極彩色のアニリン色素で染めた糸で織られます。この見本は非常に込み入ったもので、寸法も大きく高価なものと思われます。鳥のかわりに蝶々や
花、蔦の葉などが描かれることもあります。
写真左:ピクトラル
ピクトラルはその名のとおり、ナバホ族の日常生活を絵画的に描いたものです。織物をする女性、それを助ける男性、羊や馬、モニュメントヴァレーで有名な赤
い岩、伝統的な家であるホーガン、青い空と白い雲、トラック、汽車、また清涼飲料の瓶が描かれているようなこともあります。非常な技巧を要しますので、小
さな作品でも比較的に高価です。
写真右:イエイ
イエイとはナヴァホ族の宗教のなかで、樹木、光、風、雲、虹などの精を指します。イエイは人間でも神様でもなく、その両方のなかだちをしてくれる存在で、治
癒の力があると信じられています。したがってこのようなものを織ることに反対するひともいますが、サンドペインティングほど批判はされません。イエイはみ
な手にとうもろこしや羽など、儀式に必要なものを捧げているのが特徴です。